#33『鬼乞い - onigoi』



青さ弾ける 暗がり昼下がり

わびし夏の夢 になって消える



怪獣のザワメキ 田舎の怪 カラスが鳴く

西陽が焦がす路地裏

うなだれた柳 こちらを見ている



もういいかい

肌撫で足らぬ日方や

一体、何を待っている?

もういいかい

待てそこの鮮やかや

一体、何を願っている?

ひと夏のこと



夏草に舞い落つる白露の目

遠く蜃気楼 濡らし焼いた朱漆

畑に枯れたツユクサの声は

終わりを急く彼岸の腕みたいだ



境内 刻は白兎

風鈴揺らす夏至の老い

やつれた傘が 災明けを信じて仰ぐ空が嗤う



むせぶ煙の後を追い

町工場跡の墨色に

感化された猫の無邪気さがまだ彷徨っている



もういいかい いいかい

しめやか震える木々や

一体 何を想っている?

もういいかい いいかい

あてなくからぶ波や

一体 何処を目指している?



もういいかい いいかい

冷めやらぬ宵の人熱れや

誰をさらってゆく?

もういいかい いいかい

鬼を呼ぶ声がした 今

もういいよ

辿っている ひと夏のこと